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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)253号 判決 1999年1月28日

東京都大田区仲六郷二丁目四三番二号

原告

オーケー株式会社

右代表者代表取締役

飯田勧

右訴訟代理人弁護士

山田二郎

松尾翼

道あゆみ

東京都大田区蒲田本町二丁目一番二二号

被告

蒲田税務署長 長濱敏明

右指定代理人

川口泰司

須藤哲右

上中澄雄

飯島信

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が、原告に対し、平成五年五月一八日付けでした、平成元三月二一日から平成二年三月二〇日までの課税期間に係る消費税の更正のうち、課税標準額二七六億八一九九万三〇〇〇円、納付すべき税額四二八四万一八〇〇円を超える部分を取り消す。

二  被告が、原告に対し、平成五年五月一八日付けでした、平成二年三月二一日から平成三年三月二〇日までの課税期間に係る消費税の更正のうち、課税標準額三一二億三三〇四万九〇〇〇円、納付すべき税額四七一八万九一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち七五八万三〇〇〇円を超える部分を取り消す。

三  被告が、原告に対し、平成五年三月一八日付けでした、平成三年三月二一日から平成四年三月二〇日までの課税期間に係る消費税の更正のうち、課税標準額三四〇億七九四九万六〇〇〇円、納付すべき税額八〇四八万五一〇〇円を超える部分及び無申告加算税賦課決定のうち九万四五〇〇円を超える部分を取り消す。

四  被告が、原告に対し、平成八年五月一四日付けでした、平成四年三月二一日から平成五年三月二〇日までの課税期間に係る消費税の更正のうち、納付すべき税額六〇三〇万六一九七円を超える部分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、平成元年三月二一日から平成五年三月二〇日までの毎年三月二一日から翌年三月二〇日までの各課税期間(以下右各課税期間を各別に「平成元年度」ないし「平成四年度」といい、合わせて「本件各課税期間」という。)に係る原告の消費税につき、被告が、平成五年八月一八日付けで、平成元年度ないし平成三年度分についての更正(以下右各更正を各別に「本件更正(一)」ないし「本件更正(三)という。」並びに本件更正(二)に係る過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定(二)」という。)及び本件更正(三)に係る無申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定(三)」という。)をし、さらに、平成八年五月一四日付けで、平成四年度分についての更正(以下「本件更正(四)」といい、本件更正(一)ないし(三)と合わせて「本件各更正」という。)をしたため、原告において、本件各更正及び本件賦課決定(二)、(三)(以下「本件各処分」という。)のうち、前記第一記載の部分の取消しを求めた事案である。

一  関係法令等の定め

1  消費税法(以下「法」という。ただし、法二八条一項、二九条、四五条一項については平成六年法律第一〇九号による改正前のもの、法附則一一条一項については平成三年法律第七三号による改正前のものを指す。)により、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税が課される(法四条一項。この消費税を以下単に「消費税」という。)が、税制改革法一一条は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、事業者において、消費税を円滑かつ適正に転嫁すべきこと及びその際、必要と認めるときは、取引の相手方である他の事業者又は消費者にその取引に課せられる消費税の額が明らかとなる措置を講ずべきことを規定し(同条一項)、国において、消費税の円滑かつ適正な転嫁に寄与するため、消費税の仕組み等の周知徹底を図る等必要な施策を講ずるものとしている(同条二項)。

2  法は、消費税の課税標準を課税資産の譲渡等の対価の額(法二八条一項)、消費税の税率を一〇〇分の三(法二九条。ただし、法附則一一条一項により、平成元年四月一日から平成四年三月三一日までの間に国内において行われる普通乗用自動車の譲渡に係る消費税の税率は、法二九条の規定にかかわらず、一〇〇分の六とされている。)とし、いわゆる免税事業者以外の事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等に係る課税標準である金額の合計額、この合計額に対する消費税額等の事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならないとしている(法四五条一項)。

なお、右の「課税標準である金額の合計額」は「課税標準額」とされており(法四五条一項)、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項は、国税の課税標準を計算する場合において、その額に一〇〇〇円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てる旨を規定するが、右にいう課税標準とは、国税に関する法律に課税標準額の定めがある国税については、課税標準額をいうものとされている(通則法二条六号イ)。また、通則法一一九条一項は、国税の確定金額に一〇〇円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てる旨を規定する。

3  法は、法に定めるもののほか、法の規定による許可若しくは承認に関する申請、担保の提供に関する手続又は書類の記載事項若しくは提出の手続その他法を実施するため必要な事項は、大蔵省令で定めるとしている(法六一条)。

そして、消費税法施行規則(昭和六三年一二月三〇日大蔵省令第五三号。以下「規則」という。)二二条一項(ただし、平成七年大蔵省令第七五号による改正前のもの。以下同じ。)は、事業者が提出すべき確定申告書に記載すべき課税標準額に対する消費税額について、事業者が、課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を当該課税資産の譲渡等の対価の額(法二八条一項に規定する対価の額をいう。)と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額に相当する額とに区分して領収する場合において、当該消費税額に相当する金額の一円未満の端数を処理したときは、課税標準額に対する消費税額の計算については、当該端数を処理した後の消費税額に相当する金額を基礎として行うことができると規定している。

4  規則二二条一項の解釈、運用に係る通達の定め等

法が施行された平成元年四月一日当時、発遣されていた消費税法取扱通達(昭和六三年一二月三〇日付け間消一―六三。以下「旧通達」という。)においては、規則二二条一項の解釈ないし取扱に関する規定がなかったが、平成八年四月一日から施行された消費税法基本通達(平成七年一二月二五日付け課消二―二五ほか。以下「新通達」という。)では、被告の主張に一致する取扱いが規定されている。

二  争いのない事実等

1  当事者(甲第四〇号証、第五二号証)

原告は、東京都、神奈川県及び仙台地区において店舗を展開し、スーパーマーケットを経営して、食料品小売業等を営む法人であり、内部組織として、東北事業本部を設けている(原告の店舗のうち東北事業本部の傘下にあるものを以下「東北事業本部店舗」といい、東北事業本部店舗を除く店舗及び本社を以下「本件店舗等」という。)。

2  本件各処分及び不服申立ての経緯(甲第一六号証、第四九号証)

本件各処分及び原告による不服申立ての経緯は、別表一ないし四記載のとおりであり、その詳細は次のとおりである。

(一) 原告は、被告に対し、原告の消費税につき、別表ないし三の各順号1及び別表四の「確定申告」の区分各記載のとおり、平成元年度分については平成二年五月二一日に、平成二年度分については平成三年五月二一日に、平成四年度分については平成五年五月二〇日にそれぞれ期限内申告を、平成三年度分については平成四年七月六日に期限後申告を行った(以下原告による平成元年度分ないし平成四年度分の各消費税の申告を各別に「本件申告(一)」ないし「本件申告(四)」といい、合わせて「本件各申告」という。)。

(二) 被告は、原告に対して、別表一、二の各順号2、別表三の順号3及び別表四の「更正処分」の区分各記載のとおり、平成五年五月一八日付けで、平成元年度分ないし平成三年度分の各消費税につき更正(本件更正(一)ないし(三))、平成二年度分の消費税につき過少申告加算税賦課決定(本件賦課決定(二))及び平成三年度分の消費税につき無申告加算税賦課決定(本件賦課決定(三))をし、平成八年五月一四日付けで、平成四年度分の消費税につき更正(本件更正(四))をした。

(三) 原告は、本件更正(四)を除く本件各処分につき、平成五年七月一九日、東京国税局長に対し、別表一、二の各順号3、別表三の順号4各記載のとおり、異議申立てをしたが、同年一一月一八日付けでいずれも棄却され、同年一二月二二日、国税不服審判所長に対し、別表一、二の各順号5、別表三の順号6各記載のとおり、審査請求をしたが、平成七年六月一九日付けでいずれも棄却されたため、同年九月一八日、本件更正(四)を除く本件各処分の取消しを求める平成七年行ウ第二五三号事件を提起し、本件更正(四)につき、平成八年七月八日、東京国税局長に対し、別表四の「異議申立て」の区分記載のとおり、異議申立てをしたが、同年一〇月一四日に棄却され、同年一一月一二日、国税不服審判所長に対し、別表四の「審査請求」の区分記載のとおり、審査請求をしたが、平成9年一一月二一日、やはり棄却されたため、平成一〇年二月二五日、本件更正(四)の取消しを求める平成一〇年行ウ第三七号事件を提起した。

3  本件各課税期間における原告の本件店舗等における商品の販売価格の表示及びレシートの表示等について(甲第三一号証、第三九、第四〇号証、第四七号証、証人山崎、原告代表者)

(一) 商品の販売価格の表示について

原告は、本件店舗等における商品の販売に際し、顧客に対する商品の販売価格とそれに含まれる消費税額相当額の説明及び個々の商品の販売価格の表示を次のとおり行っていた。

(1) 店内における商品の価格表示及びチラシ広告における価格表示は、別紙一に示される例によっていた。

(2) 売り場においても、個々の商品の売値の表示の横に、別紙一記載の割引額及び消費税額を、例えば、売値が七九円の場合であれば、「12円+2円」と表示しており、これは、チラシ広告における個々の商品の売値表示についても同様であった。

(二) 売上代金領収時に発行するレシートの表示について商品の販売時に顧客に対し発行するレシート(レジペーパー)には、例えば別紙二記載のように、商品名、売値及び売値の合計金額である受取金額が表示されていた。

(三) 以上のような取扱いは、本件店舗等の店舗売上げ(以下「本件店舗売上げ」という。)についてのみ行われており、東北事業本部店舗における店舗売上げを含む課税資金の譲渡等(以下「東北本部売上げ」という。)及び本件店舗等における本件店舗売上げ以外の課税資産の譲渡等(以下「本件店舗外売上げ」といい、東北本部売上げと合わせて「東北本部売上げ等」という。)については採用されていなかった。

4  本件各申告における原告による課税標準額及び課税標準額に対する消費税額の計算方法について(甲第四〇号証、第五一号証、証人山崎、原告代表者)

原告は、本件店舗売上げについて、一日単位で、商品の区分ごとに「別紙二記載の例によれば、A商品、B商品、C商品の区分ごとに)売上金額を合計し、右合計額を売上個数で除すという方法によって一個当たりの売上単価を算出し、右売上単価に一〇〇分の三を乗じて得た金額の一円未満の端数を切り捨てた金額を割引額として控除し、右金額をもって規則二二条一項に規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」とし、右のようにして求めた個々の「課税資産の譲渡等の対価の額」に消費税の税率を乗じ、一円未満の端数を切り捨てた金額をもって同項に規定する「消費税額に相当する額」とし、右「課税資産の譲渡等の対価の額」とした金額にそれぞれの商品の売上個数を乗じた額及び東北本部売上げ等の額の合計額(ただし、一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)をもって、本件各課税期間の課税標準額とし、右消費税額に相当する金額にそれぞれの商品の売上個数を乗じた額及び東北本部売上げ等に係る消費税額に相当する金額の各課税期間における合計額をもって各課税期間の課税標準額に対する消費税額としていた(以下本件店舗売上げに係る原告の右計算方式を「単品ごと積上計算方式」という。)なお、原告は、東北事業本部店舗に係る店舗売上げを含む東北本部売上げ等については、単品ごと積上計算方式を採用していなかった。

5  本件各処分の根拠

被告が主張する消費税額の計算方法及びそれに基づく本件各処分の根拠は、次のとおりである。なお、本件各処分の根拠のうち、原告と被告との間で争いがあるのは、被告が主張する消費税額の計算方式に基づく本件店舗売上げに係る本件各課税期間における課税標準額及び右課税標準額に対応する消費税額のみであり、その余の点及び被告が主張する消費税額の計算方式によった場合に本件各処分が前提とした消費税額となることは当事者間に争いがない。

(一) 被告が主張する消費税額の計算方法

被告は、消費税の税率を適用すべき課税標準額は、課税期間中の課税資産の譲渡等の消費税込みの対価の額の合計額に一〇三分の一〇〇を乗じた金額の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額となり、当該課税標準額に消費税の税率を乗じて計算した金額をもって課税標準額に対する消費税額とするのが原則的な計算方法(以下この計算方法を「総額計算方式」という。)であり、規則二二条一項は、法六一条による委任を受け、事業者が課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を当該課税資産の譲渡等の対価の額と課されるべき消費税額に相当する額とに区分して領収する場合において、当該消費税額に相当する金額の一円未満の端数を処理したときに、例外的に、課税標準額に対する消費税額の計算について、端数を処理した後の消費税額に相当する金額を基礎として行うことができるとしている(以下この計算方法を「決済ごと積上計算方式」という。)のであって、原告の主張する単品ごと積上計算方式は、規則二二条一項が予定するものではないとの理解を前提として、本件各更正を行った。

(二) 本件更正(一)について

(1) 課税標準額 二八三億一四八四万九〇〇〇円

後記本件店舗売上げに係る平成元年度の課税標準の合計額二四四億九九三八万二〇〇〇円(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)と東北本部売上げ等に係る本件申告(一)において計上された平成元年度の課税標準の合計額三八億一五四六万七〇〇〇円(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)を合計したもの。

なお、本件店舗売上げに係る平成元年度の課税標準の合計額二四四億九九三八万二〇〇〇円は、原告が平成元年四月一日から同月二〇日までの期間の課税売上高に係る資料を保有していなかったために、いずれも本件申告(一)における、「<1>同月一日から同月二〇日までの間の本件店舗売上げに係る仮受消費税計上額三七〇二万六〇三四円」を、「<2>同月二一日から平成二年三月二〇日までの間の本件店舗売上げに係る消費税の課税資産及び非課税資産(両者を合わせて以下「資産」という。)の売上計上額二三二億二一五一万九六〇九円」をもって「<3>平成元年四月二一日から平成二年三月二〇日までの間の本件店舗売上げに係る仮受消費税計上額六億三二〇六万八九八四円」を除して得られる本件店舗売上げに係る平均税率〇・〇二七二一(小数点以下六桁は切捨て。)をもって除した金額一三億六〇七五万〇九七三円に前記<1>の金額を加算して求められる本件店舗売上げに係る平成元年四年一日から同月二〇日までの間の資産の税込みの売上対価の額一三億九七七七万七〇〇七円と前記<2>と前記様を合計した本件店舗売上げに係る平成元年四年二一日から平成二年三月二〇日までの間の資産の税込みの売上対価の額二三八億五三五八万八五九三円とをさらに合計して、平成元年度(平成元年四月一日以降)の本件店舗売上げに係る資産の税込みの売上対価の額二五二億五一三六万五六〇〇円を求め、これから「<4>本件申告(一)における平成元年四月一日から平成二年三月二〇日までの間の非課税資産の売上計上額の累計額一七〇〇万一四九一円」を控除した平成元年度の本件店舗売上げに係る課税資産の税込売上対価の額二五二億三四三六万四一〇九円に、一〇三分の一〇〇を乗じ、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたものである。

(2) 課税標準額に対する消費税額 八億四七七五万四四三八円

前記(1)の課税標準額のうち、本件店舗売上げに係る平成元年度の課税標準の合計額二四四億九九三八万二〇〇〇円に消費税の税率一〇〇分の三(法二九条)を乗じて得た金額七億三四九八万一四六〇円と本件申告(一)において原告が東北本部売上げ等の課税標準の合計額三八億一五四六万七〇〇〇円に対応する消費税額に相当する金額として計上した仮受消費税の金額一億一二七七万二九七八円(東北本部売上げに係る仮受消費税計上額八〇一三万三八六二円と本件店舗売上げに係る仮受消費税計上額三二六三万九一一六円の合計額)とを合計したもの。

(3) 控除対象仕入税額 七億三九〇二万六一七一円

原告が本件申告(一)において計上した控除対象仕入税額七億三九二九万四四二〇円から、消費税付課税取引につき消費税額相当額として算定された金額二八万二七五八円及び仕入未収金計上漏れの仕入割戻額三二五万七五一七円に係る仮払消費税戻し額九万七七一〇円を減算し、テーブル及び椅子の購入に係る仮払消費税額一一万二二一九円を加算したもの。

(4) 納付すべき消費税額 一億〇八七二万八二〇〇円

前記(2)の課税標準額に対する消費税額八億四七七五万四四三八円から前記(3)の控除対象仕入税額七億三九〇二万六一七一円を控除し、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てたもの。

(三) 本件更正(二)について

(1) 課税標準額 三一八億四九三二万四〇〇〇円

原告が本件申告(二)において計上した普通乗用自動車に係る課税標準の合計額九六一万六〇〇〇円、後記本件店舗売上げに係る平成二年度の課税標準の合計額二八一億三二四四万一〇〇〇円(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)と原告が本件申告(二)において計上した東北本部売上げ等に係る平成二年度の課税標準の合計額三七億〇七二六万七〇〇〇円(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)を合計したもの。

なお、本件店舗売上げに係る平成二年度の課税標準の合計額二八一億三二四四万一〇〇〇円は、いずれも本件申告(二)における、平成二年度の本件店舗売上げに係る資産の売上計上額二八二億一七〇二万九四七三円から非課税資産の売上計上額一四〇四万〇五九〇円を控除し、平成二年度の本件店舗売上げに係る仮受消費税計上額七億七三四二万六一一二円を加算した金額二八九億七六四一万四九九五円に、一〇三分の一〇〇を乗じ、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたものである。

(2) 課税標準額に対する消費税額 九億五三九六万二七四一円

前記(1)の課税標準額のうち、普通乗用自動車に係る課税標準の合計額九六一万六〇〇〇円に、普通乗用自動車に係る消費税の税率一〇〇分の六(法附則一一条一項)を乗じて得られた五七万六九六〇円、本件店舗売上げに係る平成二年度の課税標準の合計額二八一億三二四四万一〇〇〇円に消費税の税率一〇〇分の三(法二九条)を乗じて得た金額八億四三九七万三二三〇円と原告が本件申告(二)において東北本部売上げ等の課税標準の合計額三七億〇七二六万七〇〇〇円に対応する消費税に相当する金額として計上した仮受消費税の金額一億〇九四一万二五五一円(東北本部売上げに係る仮受消費税計上額八七二九万九〇八五円と本件店舗外売上げに係る仮受消費税計上額二二一一万三四六六円の合計額)とを合計したもの。

(3) 控除対象仕入税額 八億三六二二万五六一二円

原告が本件申告(二)において計上した控除対象仕入税額八億八六九四万八八五一円から、消費税不課税取引につき消費税額相当額として算定された金額四二万一二二五円、仕入未収金計上漏れの仕入割戻額三五八万二四三七円に係る仮払消費税戻し額一〇万七四五四円と前期決算計上漏れに係る仮払消費税戻し額との差額九七四四円及び平成元年度の控除対象仕入税額に含まれていた平成元年度に行った課税仕入れについて平成二年度に支払った買掛金に係る仮払消費税計上額五〇二九万一三七〇円を減算したもの。

(4) 納付すべき消費税額 一億一七七三万六二〇〇円

前記(2)の課税標準額に対する消費税額九億五三九六万二七四一円から前記(3)の控除対象仕入税額八億三六二二万六五一二円を控除し、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てたもの。

(四) 本件更正(三)について

(1) 課税標準額 三五六億一五三〇万一〇〇〇円

後記本件店舗売上げに係る平成三年度の課税標準の合計額三〇七億六八二三万一〇〇〇円(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)と原告が本件申告(三)において計上した東北本部売上げ等に係る平成三年度の課税標準の合計額四八億四七〇七万円(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)を合計したもの。

なお、本件店舗売上げに係る平成三年度の課税標準の合計額三〇七億六八二三万一〇〇〇円は、本件申告(三)における平成三年度の本件店舗売上げに係る資産の売上計上額三〇八億五六五八万六六〇一円から非課税資産の売上計上額一二五六万六二四〇円を控除し、平成三年度の本件店舗売上げに係る仮受消費税計上額八億四七二五万七九八四円を加算した金額三一六億九一二七万八三四五円に、一〇三分の一〇〇を乗じ、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のものである。

(2) 課税標準額に対する消費税額 一〇億六六七一万一一五六円

前記(1)の課税標準額のうち、本件店舗売上げに係る平成三年度の課税標準の合計額三〇七億六八二三万一〇〇〇円に消費税の税率一〇〇分の三(法二九条)を乗じて得た金額九億二三〇四万六九三〇円と原告が本件申告(三)において東北本部売上げ等の課税標準の合計額四八億四七〇七万円に対応する消費税額に相当する金額として計上した仮受消費税の金額一億四三六六万四二二六円(東北本部売上げに係る仮受消費税計上額九四九三万九四三四円と本件店舗売上げに係る仮受消費税計上額四八七二万四七九二円の合計額)とを合計したもの。

(3) 控除対象仕入税額 九億一〇四三万七〇六一円

原告が本件申告(三)において計上した控除対象仕入税額九億一一〇七万〇五三三円から、消費税不課税取引につき消費税額相当額として算定された金額四七万七二五〇円及び仕入未収金計上漏れの仕入割戻額八七九万〇一七一円に係る仮払消費税戻し額二六万三六七六円と前期決算計上漏れに係る仮払消費税戻し額との差額一五万六二二二円を減算したもの。

(4) 納付すべき消費税額 一億五六二七万四〇〇〇円

前記(2)の課税標準額に対する消費税額一〇億六六七一万一一五六円から前記(3)の控除対象仕入税額九億一〇四三万七〇六一円を控除し、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。

(五) 本件更正(四)について

(1) 課税標準額 三七一億六四四二万七〇〇〇円

後記本件店舗売上げに係る平成四年度の課税標準の合計額三三〇億二三〇六万円(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)と後記東北本部売上げ等に係る平成四年度の課税標準の合計額四一億四一三六万六〇〇〇円(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)を合計したもの(なお、右合計額は、三七一億六四四二万六〇〇〇円となり、被告が主張する課税標準額よりも一〇〇〇円少ない金額となるが、被告が主張する課税標準額は本件申告(四)における課税標準額よりも低額であり、また、右一〇〇〇円の差額は、後記(2)のとおり、課税標準額に対する消費税額の算定に影響を及ぼすものではない。)。

なお、本件店舗売上げに係る平成四年度の課税標準の合計額三三〇億二三〇六万円は、本件申告(四)における平成四年度の本件店舗売上げに係る資産の売上計上額三三一億一五八〇万四九七五円から非課税資産の売上計上額一一六四万七一二八円を控除し、平成四年度における本件店舗売上げに係る仮受消費税計上額九億〇九五九万四一九七円を加算した金額三四〇億一三七五万二〇四四円に、一〇三分の一〇〇を乗じ、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のものである。

また、東北本部売上げ等に係る平成四年度の課税標準の合計額四一億四一三六万六〇〇〇円は、原告が本件申告(四)において計上した平成四年度の東北本部売上げの額三三億六七〇三万一八〇六円に、不動産賃貸等に係る収入七億六六〇五万一九〇〇円と中古自動車二台分の下取価格である固定資産売却収入八二八万三二〇四円の合計額である本件店舗外売上げ七億七四三三万五一〇四円を合計し、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のものである。

(2) 課税標準額に対する消費税額 一一億一三三八万七一三五円

前記(1)の課税標準額のうち、本件店舗売上げに係る平成四年度の課税標準の合計額三三〇億二三〇六万円に消費税の税率一〇〇分の三(法二九条)を乗じて得た金額九億九〇六九万一八〇〇円、原告が本件申告(四)において、東北本部売上げの課税標準の合計額三三億六七〇三万一八〇六円に対応する消費税額に相当する金額として計上した仮受消費税の金額九九二八万九五七二円及び本件店舗売上げの課税標準の合計額七億七四三三万五一〇四円に対応する消費税額に相当する金額として計上した仮受消費税の金額二三五四万一二六七円から過大計上額一三万五五〇四円を減額した金額二三四〇万五七六三円を合計したもの。

(3) 控除対象仕入税額 九億七一九八万三三二五円

原告が本件申告(四)において計上した控除対象仕入税額九億七二一三万四五七八円から、仕入未収金計上漏れの仕入割戻額一三八三万一九四四円に係る仮払消費税戻し額四一万四九二九円を減算し、前期決算計上漏れに係る仮払消費税戻し額二六万三六七六円を加算したもの。

(4) 納付すべき消費税額 一億四一四〇万三八〇〇円

前記(2)の課税標準額に対する消費税額一一億一三三八万七一三五円から前記(3)の控除対象仕入税額九億七一九八万三三二五円を控除し、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。

(六) 本件賦課決定(二)について

通則法三五条二項に基づいて、本件更正(二)により納付すべきこととなった消費税額一億二一二六万九四〇〇円(本件更正(二)に係る納付すべき消費税額一億一七七三万六二〇〇円に当初申告に係る控除不足還付税額に相当する消費税額三五三万三二二八円を加算した金額。ただし、通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)を基に、通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた金額一億二一二六万円通則法六五条一項の規定する一〇〇分の一〇を乗じて得た金額一二一二万六〇〇〇円に、通則法六五条二項により、本件更正(二)により納付すべきこととなった消費税額一億二一二六万九四〇〇円から五〇万円を控除した金額一億二〇七六万円(ただし、通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の五を乗じて得た金額六〇三万八〇〇〇円を加算して、本件更正(二)に係る過少申告加算税額一八一六万四〇〇〇円を求めた。

(七) 本件賦課決定(三)について

本件更正(三)により新たに納付すべきこととなった消費税額のうち七六四二万円(ただし、通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に通則法六六条一項の規定する一〇〇分の一五を乗じて、本件更正(三)に係る無申告加算税額一一四六万三〇〇〇円を求めた。

三  争点

本件における争点は、本件各課税期間における本件店舗売上げに係る課税標準額及び課税標準額に対する消費税の算定方法を巡り、原告の採用した単品ごと積上計算方式を否定し、総額計算方式を採用して算定した本件各更正の違憲性、違法性の有無にあり、この点に関する当事者双方の主張は次のとおりである。

1  消費税の課税標準額及び課税標準額に対する消費税の算定方法に係る本件各処分の違法性の有無について

(原告)

(一) 法が予定する消費税の課税標準額及び課税標準額に対する消費税の算定方法について

法は、消費税の課税標準を課税資産の譲渡等の対価の額と定めており(法二八条一項)、通則法は、消費税の納税義務は事業者が課税資産の譲渡等をした時に成立すると定めている(通則法一五条二項七号)。そして、税制改革法一一条一項が、事業者がその負担する消費税を消費者に適正に転嫁するものとしていることからすると、消費税の納税義務は課税資産の譲渡等があったときに、課税資産の譲渡等に係る単品ごとに成立するものであり、消費税の課税標準について、単品ごと積上計算方式こそ消費税の課税構造に適合している計算方式であるということができる。被告が、消費税の課税標準の計算方式について、総額計算方式を原則的な計算方式とし、決済ごと積上計算方式を例外としていること、また、単品ごと積上計算方式を許さないとしていることは、消費税の課税構造(法二八条一項、通則法一五条二項七号)と整合しないものである。

法四五条一項は、確定申告の記載事項という手続的な事項について定めているものであり、消費税の課税標準という実体的な事項を定めているものではないのであるから、消費税の課税標準の計算方式についての法的根拠とはならない。消費税の課税標準は、法二八条一項に定める課税標準に従って計算されるべきものであり、単品ごと積上計算方式が消費税の課税構造に適合する。

課税標準の端数計算等については通則法一一八条に、税額の端数計算等については通則法一一九条に定められており、右端数計算等の諸規定が単品ごと積上計算方式に適合しないというのであれば、法令を制定すべきであり、法令の欠缺、不備を理由に単品ごと積上計算方式を否定し、納税者に不利になるよう、恣意的に法の運用をすることは許されない。

以上のとおり、消費税の課税標準の計算方式としては、単品ごと積上計算方式が消費税の課税構造に適合するものであるが、少なくとも、総額計算方式、決済ごと積上計算方式、単品ごと積上計算方式の選択を納税者に認めるべきであり、この選択を認めていない本件各更正は消費税の課税構造と適合しない違法なものである。また、単品ごと積上計算方式が許されないからといって、直ちに総額計算方式によるということになるべきものではなく、決済ごと積上計算方式の可否を検討すべきである。

(二) 法四五条一項の違憲性について

法四五条一項は、消費税の確定申告手続として総額計算方式を規定しているが、他方、法二八条及び納税義務の成立時を個別の取引譲渡した通則法一五条二項七号並びに消費者への消費税転嫁を原則とした税制改革法一一条は、単品ごと積上計算方式を導く内容を有しており、同じ消費税につき定めた法律の中にあって、課税標準を定める法二八条、その内容を明確化する通則法一五条二項七号、税制改革法一一条と申告手続につき定めた法四五条一項とが、税額計算の方法につき、矛盾した内容を導く余地があるのであって、明確かつ一義的な課税を公定していない点において、租税法律主義に違反するものである。

そして、このように一つの租税法の中にあって矛盾した複数の規定が存する場合には、「疑わしきは国庫の不利益に」との解釈基準に従い、納税者たる国民の不利益に右各規定を解釈することはあってはならないところ、単品ごと積上計算方式により端数処理をする場合に比べ、総額計算方式により端数処理をする場合の方が消費税額が多額になるのであり、また、消費者への転嫁方式には内税方式、外税方式があり、端数処理の方式にも切り上げ、切り捨て、四捨五入があるが、いずれの方式を採用するにしても、納税者が預り金である消費税額相当額よりも多額の消費税を納めなければならないということはあってはならないことである。

(三) 規則二二条一項の根拠について

法六一条は、「この法律に定めるもののほか、この法律の規定による許可若しくは承認に関する申請、担保の提供に関する手続又は書類の記載事項若しくは提出の手続その他この法律を実施するため必要な事項は、大蔵省令で定める。」と規定するものであって、規則二二条一項に定めている課税標準額の計算のような実体要件はおよそ右大蔵省令への委任事項に含まれていない。また、法六一条は、政令に委任するものではなく、直接大蔵省令すなわち規則に委任しているが、規則への委任事項として許されているのは、書類の書式、記載事項など手続に関することであり、消費税の課税標準や課税標準の計算など実体的な事項や納税者の権利を制限することを規則に委任することは許されていない(国家行政組織法一二条四項)。したがって、規則二二条一項は、租税法律主義に違反する無効な規定であり、規則二二条一項を法的根拠としている本件各処分は違法である。

(四) 規則二二条一項に定める要件の不明確性について

規則二二条一項に定める「決済上受領すべき金額を当該課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額に相当する額とに区分して領収する場合」という要件のうち、「決済上受領すべき金額」の意義及び「区分して領収する」の意義は不明確であり、課税要件明確主義に違反する。右規定の解釈は、本件訴え提起後である平成七年一二月二五日に発遣され、平成八年四月一日から適用されることになった新通達一五―二―三によって初めて明らかにされたものである。このことは、すなわち、新通達が施行されるまでは、複数の課税資産の取引を行い代金を領収する場合の消費税の課税標準及び課税標準の計算方法について公権的解釈が存在しなかったということを意味している。

なお、本件価格と消費税額相当額との区分の内訳を事業者が承知しているだけでは足りないという法的根拠はなく、仮に、顧客に対しても明示すべきであるとしても、領収書で明示することには限定されず、店頭商品やチラシ広告の価格表示によって明示しておれば足りるものである。

(被告)

法が予定している消費税の課税標準額及び課税標準額に対する消費税の算定方法は、前記第二、二、5、(一)記載のとおりであり、法四五条一項が原則的計算方式である総額計算方式を定め、規則二二条一項がその特則である決済ごと積上計算方式を規定しているのであって、単品ごと積上計算方式は法及び規則が予定する消費税の課税標準額及び課税標準額に対する消費税の算定方法には該当しない。

(一) 法二八条について

法二八条に定める課税標準(課税資産の譲渡等の対価の額)は、その課税期間における消費税額を計算するための直接の基礎となる法四五条一項一号の課税標準額を計算するための要素となる金額を定めるにすぎず、課税標準額の具体的な計算方法そのものは、法四五条一項一号に定めるところによるのであって、法二八条から単品ごと積上計算方式が導き出されるものではない。

(二) 通則法一五条二項七号について

国税の納税義務は、各税法に定める課税要件が充足されることにより、抽象的に発生、成立し、成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、その後確定のための所定の手続を経てはじめて具体的に確定される(通則法一五条一項)。そして、通則法一五条二項は、この各税の納税義務の成立時期について、各税ごとに具体的に定めているにすぎず、消費税の税額計算の方法等については何ら定めていないのであって、原告が主張する単品ごと積上計算方式が導き出される根拠となるものではない。

(三) 規則二二条一項の根拠について

(1) 国家行政組織法上、各大臣には、所管の法律若しくは政令を施行するために必要な命令(省令)の制定が認められているのである(国家行政組織法一二条一項)、ただ、「罰則を設け、又は義務を課し、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定」は法律の委任がなければ設けることができない(同条四項)とされているのであって、原告が主張するように「書類の記載事項など手続的なこと」以外は命令の制定が許されないというものではない。

(2) 規則二二条一項は、法六一条を受け、法の実施命令の一つとして法四五条一項二号の「課税標準額に対する消費税額」の計算方法の特例を定めたものであって、「罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定」とはいえないから法による省令への委任の範囲内のものであって、何ら租税法律主義に反するものではない。

(四) 規則二二条一項に規定する「決済上受領すべき金額」、「区分して受領する」の内容の明確性について

(1) 「決済」という用語は、ごく一般的に使用されている用語であって、売買取引における商品の代金等取引に係る対価の授受をいう。これを複数商品の売買についてみれば、複数商品の代金を合計して購入者に請求し、その合計金額を一括して受領するのが通常の決済方法であって、商品個々について個別的に代金決済を行うことは皆無又は極めて異例のものである。したがって、「決済上受領すべき金額」との文言が、複数商品の取引においては、通常その合計金額を指すことは明らかである。

(2) また、代金の領収は、取引相手の支払行為と裏腹の関係に立つものであり、商品の本体価格と消費税額とを区分して領収するためには、相手方に対しこの区分を明示し、相手方も区分された内容を認識して支払を行う必要があり、複数商品の取引においては、代金の決済が合計金額により行われるのが通常の取引形態であることに鑑みれば、「区分して領収する」が、その合計金額について本体価格と消費税額相当分とを区分して相手方に明示して対価を領収することを意味することは明らかである。

(3) 新通達は、右の趣旨を明らかにしたものであって、規則二二条一項の解釈、取扱いを変更するものではない。

2  本件各処分が信義則、平等原則、罰刑法定主義、アムビギュイティの法理に違反するものか否か。

(原告)

(一) 消費税法案は、紆余曲折を経て、昭和六三年一二月二五日に強行採決され、四か月後の平成元年四月一日から施行されることとなり、国税当局においても、消費税について周知期間を設け、国民特に納税義務者に対して消費税の仕組みについて行政指導を行うこととなっていた。しかし、国税当局が周知期間の間に行ったことは、数種類の主に国民向けのチラシや冊子の発行、消費税の立法に関与した職員の個人名による私的な解説書の発行と、一年間は加算税を徴収しないという方針だけであり、個別具体的な税務処理の指導、申告指導等は何も行っていない。とりわけ、消費税への対応が混乱していたスーパーマーケットに対する行政指導は全くなかったといってよい。

(二) すなわち、国税庁から発行された「消費税のあらまし」(甲第一七号証)には、「端数計算はどのように」との項目が挙げられ、その中で「取引ごとに課税資産の譲渡等の対価の額とその消費税額とを区分して領収している場合において、その消費税額の一円未満の端数を処理しているときは、その端数処理を行った後の金額の合計額」をその課税期間の消費税額とする旨の規則二二条一項と同内容の説明があるものの、「取引ごと」や「区分して領収」するとの文言を定義する記載は一切なく、本体価格と消費税額とを区分して明示しなければならないとの記載も、ましてや、領収書や請求書においてこれを明示しなければならない旨の記載もない。同様に、大蔵省主税局税制第二課が発行した「消費税の解説」(甲第一八号証)においても、申告書の記載事項を説明するものとして、規則二二条一項と同内容の記述があるが、ここでも、「決済上受領すべき額」ないしは「区分して領収」するとの内容についての解説は一切なく、単に「税抜き価格分と消費税分を分けて領収している場合に、個々の取引ごとに端数処理をして計算した消費税に相当する金額を合計して納付税額を計算できる」とされているにすぎない。このように、当時の大蔵省及び国税庁発行の資料には、確定申告時に最も重要な課税標準額に対する消費税額の算出方法について、極めて一般的な説明しか記載されておらず、どのような場合に端数処理した金額の積上計算方式が許されるのかといった具体的な適用場面を想定しての解説は一切なかった。

しかも、同時期に政府広報室から発行された「新税制のあらまし」と題するパンフレット(甲第一九号証)には、納税者は消費税の上乗せ(転嫁)や新価格の表示の方法が選択できる旨の説明があり、この時期既に、消費税導入後の新価格の表示方法が各種あることについての可能性が、政府内部において、認識、検討されており、そこでは、店頭掲示や商品値札等での(内枠表示や外枠表示による)新価格の表示を当然念頭に置いていたことは明らかである。それにもかかわらず、前記各解説書等では、消費税額の明示が必要との指針も、明示に当たっては各種表示方法のいずれを選択すべきとの指針も示されていなかった。

(三) また、消費税の施行に先立ち、原告内部において、消費税の転嫁や表示方法につき検討を重ねた結果、単品ごとの端数切り捨てを行えば、総額計算方式より単品ごと積上計算方式の方が消費税額が少額となることに気付き、当時の原告の担当者である山崎誠一(以下「山崎」という。)において、国税庁ないし東京国税局の相談窓口に実務的取扱方法を問い合わせたところ差額が出来ることの資料方法については「検討していない」との回答であり、さらに、平成元年三月ころ、東京国税局の担当職員が原告を訪ね、山崎から、原告のチラシ、商品棚のポップの表示、消費税の算出方法、転嫁方法等についての説明を受けた際に、右説明を納得した上で、「御社の方針は違法とはいえませんね。」というコメントを残しており、平成二年三月二日から同月一二日にかけて東京国税局職員により行われた税務調査では、消費税については話題にもなっておらず、平成五年四月八日、良く九日に行われた税務調査も、もっぱら法人税の調査であり、消費税の調査は最後の僅かの時間行わなかっただけであった。その際、調査を担当した東京国税局の職員は、原告の採用する消費税額の計算方法につき質問し、当時の原告の担当者であった吉村昭博(以下「吉村」という。)は、原告が単品ごと積上計算方式を採用し、社内システムのプログラムもこの方式によって消費税額を計算するよう設定されている旨回答した。これに対し、調査担当職員は、原告の発行するレシートの閲覧を求め、本体価格と消費税額とがレシート上区分されていないことを指摘したので、吉村は、平成二年四月四日付けの富士通株式会社東京南支店長からの手紙を示し、レジ機能を改善すべく努力してきたが、経済上、技術上の理由により、未だそれが完了できずにいる旨釈明するとともに、規則二二条一項の文言上、何らレシート上の表示を要件としていない旨を主張したところ、調査担当者は、明確な回答や反論をすることなく、あくまでレシート上に消費税額の明示のない事実のみを留意しているとして、帰庁し、それ以後、課税庁から原告に対する指摘は何らなかった。

なお、原告としては、レシート上の消費税額の明示をことさらに怠ろうとしたのではない。原告は、法の施行に当たり、レシートに消費税額を表示することを検討したが、レジスターの機能の限界から即座にこれを実現することができなかったため、これを断念し、チラシの原稿にも、レジスターの機能変更ができるまでの間は、割引をしてその後に消費税を加算するという作業をレジ表示上は省略する旨を明記しようとしていたのである。消費税の導入について、レジスターの準備、会計システムの調整等からいって、一年という周知期間は余りにも短すぎるものであり、消費税の導入後も消費税に対する根強い反対が続き、消費税の定着に相当の期間を要したことを考えると、一年という周知期間は実情を考慮していないものといわざるを得ない。

(四) 原告は、法施行前において、新価格及び消費税額の表示方法について、主に公正取引委員会(以下「公取委」という。)と頻繁に折衝を重ねていたが、公取委は、事業者が内税方式と外税方式のいずれを採用するのかを明らかにし、外税方式を採用する場合には、税抜き価格をしかるべき場所に表示するよう指導し、さらに、表示方法につき、領収書や請求書に限定せず、店内掲示やチラシなどの各種の方法を総合して消費者に分かるように行えばよいと一貫して指導していた。公取委の委員には、つい最近まで、大蔵省の高官が退官後に就任することが不文律となっており、原告のような一介のスーパーマーケットを業とする納税義務者には、公取委の指導に従うことは当然大蔵省の指導に従うことになるとの認識を持っていたのであり、公取委が前記のような指導をしたということは、外税方式を採用する場合には、本体価格と消費税額を区分して領収することを念頭に置いていたものにほかならないと解されたのである。

(五) 以上のように、原告は、消費税導入の窓口的役割を果たしていた公取委の行政指導に従って消費税の受入態勢を整え、国税当局の担当職員から原告の消費税の処理が間違っていないという了承を受けて、法が施行された平成元年四月一日から単品ごと積上計算方式で処理してきたのであり、消費税の導入に当たっての被告の対応は行政指導の名に値するものではなく、税務職員に消費税について事業者、特にスーパーマーケット業者を指導するような能力が欠けていたといわざるを得ない状態にあったにもかかわらず、また、消費税導入後平成五年五月まで数年間も前記のような原告の処理を容認しておきながら、前触れもなく突然否認するということは、消費税が新しい税金であり、対応が不透明で混乱していた税金であるからといって、許されるものではなく、明らかに信義則に反するものである。

(六) また、新立法の施行運用に関しては、周知期間又は弾力的運用期間を設け、その新法に習熟していない国民ないし納税者にサンクションを課さないことが、ほぼ事実たる習慣として確立している状態の下で、被告を含む国税当局が、明確な法令の基準、解釈を示すこともしなかったのにもかかわらず、被告が、単に徴税官であるというだけの権限に基づいて、突然公示公開もされていない自己の判断を原告に押し付けることは、平等原則及び罪刑法定主義の精神に反するものであり、許されない。

(七) さらに、英米法におけるコモンローの確立した原理であるアムビギュイティの法理は、例えば契約法における法の解釈に当たって適用される法原理であって、「その条文の解釈についての文章が曖昧である場合は、それを提案した者の不利益にその条文は解釈されなければならない。」というものであるが、法施行当時、国論を二分したほど紛糾したあげく成立した法について、政府は、法施行後も法四五条及び規則二二条一項についての公的見解を示さなかったのであるから、そのような状況の下において、法四五条及び規則二二条一項についての原告に不利な解釈に基づきされた本件各処分はアムビギュイティの法理に反するものというべきである。

(被告)

原告が入手したとする「消費税のあらまし」及び「消費税の解説」の記載内容は原告指摘のとおりであるが、これらの資料は、我が国になじみの薄い消費税について、その課税対象、納税義務者の範囲、消費税額の計算方法や申告納付の手続等を事業者に理解してもらうために作成されたものであって、紙数の制約を考えれば、その記載内容も自ずと一般的、総論的な事項を中心にせざるを得ず、「消費税のあらまし」においても、この文書の記載内容の限界を考慮し、「説明内容についてお分かりにならないことや、更に詳しくお知りになりたいことがありましたら、最寄りの税務署の間税担当部門や税務相談室にお尋ねください。」と記載しているのである。規則二二条一項の内容や取扱いについては、市販本を通じて広く一般に周知されており、その内容も十分に明確にされていた。なお、「新税制のあらまし」の原告指摘の記述は、消費税の導入に伴う適正な商取引の確保を図るために、消費税の適正な転嫁の方法や価格表示の方法を示し、また、これらの方法につき業界団体ごとのカルテル(共同行為)が認められること等を示したものにすぎず、消費税の税額計算の方法とは何ら関係のないものである。

そして、原告は、自らの経営の中に、東北事業本部店舗における消費税計算方式と本件店舗における消費税計算方式とを有していたのであり、その間の格差や調整といったことに関心がなかったはずはなく、原告においても、規則二二条一項の適用要件等について確認することができる体制は十分整っていたのであり、税務当局に対しそのような照会をする動機、関心等も有していたはずであるところ、そのような照会をしていれば、原告が採用した区分明示の方法が規則二二条一項の要件を満たすとする回答が出されるはずがないことは、当時の周知の状況や指導の状況等からみて明らかである。

四  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  法が予定する消費税額の算定方法について

1  消費税の納税義務は、課税資産の譲渡等をした時に成立するが(通則法一五条二項七号)、消費税は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税には含まれておらず(同条三項)、その税額の確定については、申告納税方式(通則法一六条一項一号)が採用されている。すなわち、課税資産の譲渡等に係る消費税については、課税資産の譲渡等をした時に納税義務が成立するものの、その税額の確定は、個々の納税義務の発生のつどではなく、課税期間(法一九条)ごとに、その期間内に納税義務が成立した消費税につき確定申告を行うことによって、税額が確定するという方式が採用されているのである(法四五条)

2  そして、法は、法二八条一項において、消費税の納税義務が成立する際、すなわち、課税資産の譲渡等をした時(通則法一五条二項七号)における、消費税の課税標準が課税資産の譲渡等の対価の額である旨規定し、法四五条一項において、消費税の税額確定のための確定申告書の記載事項として、課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等に係る課税標準である金額の合計額である課税標準額及びこれに対する消費税額等を定めているのである。なお、講学上、課税標準とは税率を適用するために課税物件を金額化又は数量化した金額又は数量をいうものであり、法は課税標準に関する法二八条に続けて法二九条において税率を規定するから、法二八条一項に規定する課税資産の譲渡等における対価の額が納付すべき税額を確定させるために税率を適用すべき課税標準であるかのような誤解を生じやすいが、課税標準及び課税標準額の用語は、法のみならず通則法二条六号イにおいて、それぞれ明確にその意味が明らかにされているのであって、右に説示したことは、法の文理から明らかということができる。したがって、法が、納税義務者が納付すべき消費税の税額につき、課税期間内に成立した納税義務の対象たる個々の課税資産の譲渡等に係る対価の額ごとに消費税の税率を乗じて消費税額を算定するという方式ではなく、課税期間内における課税資産の譲渡等に係る対価の額の合計額を課税標準額として、これに消費税の税率を乗ずることにより、課税標準額に対する消費税額を算定するという方法、すなわち、総額計算方式を採用していることは明らかというべきである。

3  この点、原告は、法二八条一項、通則法一五条二項七号及び税制改革法一一条一項の各規定から、単品ごと積上計算方式が消費税の課税構造に適合している計算方式であり、法四五条一項は、確定申告の記載事項という手続的な事項について定めたものにすぎないから、これを消費税の課税標準の計算方式の法的根拠とすることはできず、また、法四五条一項が総額計算方式の法的根拠となるとしても、法二八条一項、通則法一五条二項七号及び税制改革法一一条と法四五条一項とが、税額計算の方法につき、矛盾した内容を導く余地があり、明確かつ一義的な課税を公定していない点において、法四五条一項は租税法律主義に違反するものであると主張する。

しかし、通則法一五条二項の各号列記以外の部分の文言及び各号の内容に照らし、右規定が納税義務の成立時期を規定するものであって、税額算定方式について規定するものではないことは明らかというべきであり、法二八条一項は、課税物件すなわち課税の対象となる行為が課税資産等の譲渡等であること及びこの課税物件は対価の額をもって算定されることを規定するものにすぎず、同項の規定から、当然に、複数の課税資産の譲渡が一括してなされたときに、消費税の課税標準をその単品ごとに観念すべきとの結論が導かれるものではなく、また、法は、右納税義務成立と同時に右課税標準を基準として税額が確定するという方式を採用せず、税額の確定は、確定申告手続に委ねるという方式を採用しているのであるから、消費税の確定申告について規定する法四五条一項において、原則的な消費税の税額計算方式を定めることは、当然というべきであり、通則法一五条二項七号や法二八条一項をもって、ある一定の税額算定方式の根拠とすることは適当ではない。また、消費税を円滑かつ適正に転嫁するためには、具体的な課税資産の譲渡に際して、当該譲渡に係る消費税額が算定可能であることが必要となるが、消費税の算定方法は法から明らかであり、法の規定を前提として事業者の円滑かつ適切な消費税の転嫁のためにいかなる方法を採用するかは検討の余地があるとしても、税制改革法一一条が単品ごと積上計算方式を原則としているものということはできない。なお、法二八条一項に規定する課税標準は金額で表示され、課税標準額とはその課税期間における課税標準の総和を意味することになるから、個別的な課税資産等の譲渡等における課税標準に相応する消費税額を想定することはできるが、既に説示したとおり、法二八条は納付すべき税額を確定させるために税率を適用すべき課税標準額を規定するものではないから、個別的な対価の額について通則法一一八条を適用したり、観念的に想定される個別的な譲渡に対応する消費税額について通則法一一九条を適用する余地はなく、計算上、個別的な譲渡における対価の額の一〇三分の一〇〇を合算したものと各対価の額の総和の一〇三分の一〇〇とは一致することとなるから、法四五条一項の予定する総額計算方式による消費税額法二八条一項に規定する課税標準に相応する消費税額の総和と矛盾するものでもないのである。

以上のとおり、法四五条一項は、消費税額の計算方法につき、明確かつ一義的に総額計算方式の原則を採用することを規定しているというべきであって、租税法律主義に反するものではない。したがって、原告の右主張は採用することはできない。

4  右のように、法四五条一項は、消費税額の計算方式につき総額計算方式を採用することを規定しているが、規則二二条一項は、課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を当該課税資産の譲渡等の対価の額(本体価額)と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額に相当する額とに区分して領収する場合において、当該消費税額に相当する金額の一円未満の端数処理をしたときは、当該端数を処理した後の消費税額に相当する額を基礎として消費税額を算定する決済ごと積上計算方式を選択することができる旨を規定しており、右規定は、法六一条に基づき、大蔵省令である規則において定められた法四五条一項の特則ということができる。

この点につき、原告は、課税標準の計算のような実体要件は法六一条の規定する大蔵省令への委任事項に含まれず、そもそも、国家行政組織法一二条四項により、消費税の課税標準や課税標準の計算など実体的な事項や納税者の権利を制限することを規則に委任することは許されておらず、また、規則二二条一項に定める「決済上受領すべき金額」及び「区分して領収する」という要件が不明確であるとして、規則二二条一項が租税法律主義に違反する無効な規定であると主張する。

しかし、国家行政組織法一二条四項は、法律の委任がなければ省令に「罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定」を設けることができないと規定するところ、規則二二条一項が罰則を設け、又は義務を課するものでないことは明らかであり、また、決済ごと積上計算方式によるときは、法が予定する総額計算方式に比して消費税額が減少することからすれば、国民の権利を制限する規定に該当しないことも明らかであり、現実の取引では個別的な課税資産の譲渡等における対価の授受(決済)において消費税の転嫁が実現されることからすれば、一定の要件の下に決済ごと積上計算方式の選択を認めることには税制改革法の趣旨に照らしても合理性があり、法六一条の委任に基づくものであることを考慮すれば、租税法律主義に違反するものでないことは明らかである。また、「決済」という用語自体は、課税資産の譲渡等の取引において対価を支払い、当該取引の履行を完成させることを指すものというべきであるところ、当該取引が複数商品を対象としていても、社会通念上一回と評価される取引行為の対価の支払は一つの決済として扱われているのであって、このような場合には、通常、一通の請求書、領収書にその対価の額が表示されるのであって、複数商品を対象とする一回的な取引において、個々の商品ごとに「決済」が行われることは通常予定されていないものというべきであるから、規則二二条一項に規定する「決済上受領すべき金額」との表現につき、単品ごとに決済が行われることを前提とするものと解することは相当でない。また、「区分して領収する」という要件については、法が予定する総額計算方式の例外である決済ごと積上計算方式の要件として、各決済ごとに本体価格と消費税相当額との区分が外観的に明らかにされていることはもとより、規則二二条一項の文言は「事業者」を主語として規定されているため「区分して領収する」とされているのであり、これは当該課税資産の譲渡等の相手方の立場からみたときの「区分して支払う」と同義であるから、当然、当該課税資産の譲渡等の相手方が、決済の時点において、本体価額と消費税額相当額との区分につき認識し得ることが必要とされることは明らかにというべきであり、新通達もそのことを明らかにしたものにすぎず、この点について、要件が不明確であるとして租税法律主義に違反するものではないことも明らかである(なお、原告は、本件各処分が規則二二条一項を根拠としているとして、右の主張を本件各処分の違法事由として主張しているが、前記のとおり、規則二二条一項そのものは、本件各処分の根拠とはされていないのであるから、原告の右主張は主張自体失当というべきである。)。

5  原告が本件各申告において採用した消費税額算出方法は、「決済ごと」ではなく「単品ごと」の積上計算であって規則二二条一項の予定する計算方法ということはできない。

なお、原告は、店内の表示等において、本体価格と消費税額に相当する額を表示していることをもって、本体価格と消費税額に相当する額とを区分して領収するとの規則二二条一項の要件を満たしていると主張するが、その表示は、要するに、単品の価格には各単品の代価につき計算した消費税額が含まれること及びその計算方法を明らかにしたものにすぎず、その税額算定の方式に照らしても、決済上受領した金銭についての本体価格と消費税額相当額との区分を前提とするものではなく、レシート上も、本体価格と消費税額に相当する額とが区分して表示されておらず、本体価格と消費税額に相当する額とを区分して領収しているとはいえない点において、規則二二条一項の要件を満たすものということはできない。また、証拠(甲第五一号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告の営むスーパーマーケット営業において、タイムサービスや賞味期限等により、一部の商品のみが、店頭に表示された値札価格よりも更に値引きが行われることがあることが認められるところ、そのような商品については、店頭表示においても、本体価格と消費税に相当する額とが区分して表示されているとはいい難く、それが故に、本件各申告における原告の具体的計算方法も、具体的な単品ごとに区分して領収された消費税額に相当する額を積算して課税標準額に対する消費税額を算出するという方法によっているのではなく、商品ごとの総売上高から計算上算出される平均価格をもって、消費税額に相当する額を値引きする前の価格とし、その価格に消費税の税率を乗じて、一円未満の端数処理をした額を消費税額に相当する額として、それを積算するという方法によっているものというべきであるから、やはり、原告の採用した計算方式は、規則二二条一項の要件を満たすものとはいえないものというべきである。原告が右のような計算方式を採用していたことに照らせば、本件各申告に係る消費税につき、決済ごと積上計算方式の適用を検討する余地はないものというべきである。

また、原告は、納税者が預り金である消費税相当額よりも多額の消費税を納めなければならないということがあってはならないと主張するが、その点は、事業者が、納付すべき消費税を適正に転嫁しているか否かによるのであり、事業者が納付すべき消費税額は、法四五条一項に規定する総額計算方式に基づいて算定される課税標準額に対する消費税額に基づいて算定されることが原則であり、規則二二条一項において、領収時点で端数処理をした場合に、端数処理をした金額を基にして、課税標準額に対する消費税額とすることができるとの特則が設けられているのであるから、右特則の要件を満たさない以上は、原則に戻って計算すべきものというべきであり、特則の要件を満たさないような独自の端数処理を行って消費者への転嫁をしていた者が、その方法によって転嫁した額が法四五条一項に基づき算定される消費税額よりも低額であるとして、法及び規則において認められていない独自の方法に基づく転嫁額を基として算定された額のみを納付すべき消費税額であるとすることが許されないことは明らかというべきである。

6  したがって、前記第二、二、5記載のとおりの根拠に基づきされた本件各処分には、租税法規適用上の違法は存しないものというべきである。

二  本件各処分が信義則、罰刑法定主義、アムビギュイティの法理に違反するものか否かについて

1  租税法期に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用が考えられるのであり、右特別の事情が存するか否かの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないかどうかという点の考慮が不可欠というべきである(最高裁判所昭和六二年一〇月三〇日第三小法廷判決・裁判集民事一五二号九三頁)。

2  この点につき、原告は、本件各処分が信義則に違反することを基礎付ける事実として、消費税の導入までの周知期間が短く、その間、規則二二条一項の解釈に関する公的見解は一切示されず、税務当局による行政指導もほとんどなされなかったこと、法の施行の直前に東京国税局の職員が原告を訪ねた際に、原告のチラシ、ポップの表示、消費税の算出方法、転嫁方法等についての説明に対して納得し、「御社の方針は違法とはいえませんね。」とのコメントを残していること、法施行後に行われた税務調査においても、原告の計算方式について、問題があるとの指摘がなされていないこと、原告が法の施行に先立ち公取委の指導を受け、それに従ってきたこと等を挙げている。

3  このうち、法施行直前に東京国税局の職員が原告を訪ねたとする点については、その対応をしたという山崎の記憶自体がかなりあいまいであるといわざるを得ない上、証拠(証人山崎)によれば、山崎は、原告における税務関係の担当者ではなく、法施行前において、消費税分を値引きして「吸収」するとの原告の方針を巡り、チラシや店内掲示等における表示の方法等につき公取委から受けた指導に関し、公取委との関係において、その折衝に当たっていたものであり、原告においては、税務関係の方針決定等は、もと太陽神戸銀行常務取締役であり、同行の経理部長も経験していた会長の坪沼尚蔵(以下「坪沼会長」という。)が行っていたことが認められるところ、右事実に照らせば、山崎の関心は、主として、価格表示の方法にあり、税務上の処理方法については、詳細を承知する立場にはなかったものというべきであって、仮に、山崎の供述するとおり、法施行直前に東京国税局の職員が原告を訪ね、山崎から説明を受けたことがあったとしても、山崎がその職員に対し、原告の主張する単品ごと積上計算方式について、その職員において、法及び規則に適合するものであるか否かを判断できる程度に詳細に説明したものとは解されない。また、原告が主張するその余の税務調査の際のやりとり等についても、それらをもって、税務官庁が公的見解を表示したものと認めるには足りない。さらに、原告が主張する公取委からの指導に従っていたとの点についても、公取委からの指導は価格表示の面についてのものであり、税務処理に関するものでないことは、公取委の目的、機能に照らし明らかというべきであり、原告において税務関係の方針決定を行っていた坪沼会長の経歴に照らし、坪沼会長において、公取委の指導が税務処理に関する大蔵省、国税局の指導と同視できるものとの認識を有していたものとは到底考えられないのであるから、公取委の指導をもって、税務官庁の公的見解の表示があったということはできないし、原告において、それを税務官庁による公的見解の表示だと考えたとしても、そのことにつき責に帰すべき事由がなかったとはいえない。

なお、原告が入手した資料として挙げている「消費税のあらまし」(甲第一七号証)及び「消費税の解説」(甲第一八号証)は、消費者への転嫁を予定する消費税の性格を解説し、法の文言を引用するため、その記載中には法二八条一項に規定する課税標準が税率を適用すべき額であると誤解されるおそれのある部分が存在するが、いずれの資料においても、税額の計算方法として総額計算方式によるべきことを解説しているのであるから、これらの資料によって、法の解釈と異なる公的見解の表明がされたと解することはできない。

4  税制改革法一一条二項は、「国は、消費税の円滑かつ適正な転嫁に寄与するため、前項の規定を踏まえ、消費税の仕組み等の周知徹底を図る等必要な施策を講ずるものとする。」と規定しているところ、法施行当時発遣されていた旧通達においては、規則二二条一項の解釈ないし取扱いに関する規定がなく、それが通達上明らかにされたのは、平成八年四月一日から施行された新通達においてであることは前記のとおりであり、前掲「消費税のあらまし」及び「消費税の解説」には、規則二二条一項の条文と同内容の記述があるだけで、「決済上受領すべき額」あるいは「区分して領収」するとの文言に関する定義や解説は掲げられていないことは当事者間に争いがないが、「決済上受領すべき額」及び「区分して領収」するということの意義が不明確でないことは既に説示したとおりであり、証拠(乙第一号証の一ないし一一、第七号証)によれば、平成元年三月二〇日発行の国税間税部長が監修し、同部消費税課職員の編による「詳解消費税法」(乙第一号証の一)には、規則二二条一項の適用要件につき、被告主張と同旨の記述があり、同年九月二〇日発行の同人の編に係る「消費税質疑応答集」(乙第一号証の二)にはスーパーマーケット経営者からの質問に対する回答という形式をもって、消費税額を本体価額と区分して領収する場合の課税標準額に対する消費税額の計算につき説明した中に、「本体価格と消費税額とを区分して領収するというのは、領収時に、税抜価格により表示した複数の商品代を集計し、これに税率を乗じた金額を加算して領収する場合をいい、また、本体価格と消費税額との区分は相手方に対して具体的に明示しなければならないこととされています。」と記載されており、同じ説明は、同年六月五日付けの財団法人大蔵財務協会税のしるべ総局発行の「週刊税のしるべ一九二八号」、同月一日税務経理協会発行の「税経通信六〇七号」、税務研究会発行の同年七月三日付け「週刊税務通信二〇八九号」、税務経営研究会発行の同年六月一五日付け「税務会計一一五八号」にも掲載され、その他被告主張と同旨の説明記事が右各税務関係専門誌(紙)に掲載されていること、また、新通達発遣前である平成四年七月一〇日に発行された山本守之著「実務消費税法(三訂版)」の「税抜対価の額と消費税額を区分して領収する場合」の項目には、「この区分は相手方に対して具体的に明示しなければならない」、「消費税額の一円未満の端数処理の計算単位は、決済上受領すべき金額、すなわち、取引ごとに行うことになる」と記載されており、新通達と同様の考え方が述べられていることが認められるのであって、右事実に照らせば、法施行当時において、規則二二条一項に規定する「決済上受領すべき額」あるいは「区分して領収」するとの文言の意義について、新通達と同様の解釈が示されていたものということができる。

また、同法一七条二項は、「国税当局においては、昭和六四年九月三〇日までは、消費税になじみの薄い我国の現状を踏まえ、その執行に当たり、広報、相談及び指導を中心として弾力的運営を行うものとする。」と規定しているところ、国税当局における平成元年九月三〇日までの間の消費税に係る広報等に不十分な点があったことは窺われず、本件各処分も右期間経過後に申告時期を迎える課税期間に係る消費税についてのものである。

5  したがって、以上の点に照らし、本件各処分が信義則に違反し、あるいは、平等原則に違反するとは認められないし、アムビギュイティの法理、租税法における罪刑法定主義に違反するとする原告の主張が失当であることは明らかというべきである。

三  したがって、本件各処分はいずれも適法になされたものというべきである。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)

別表一

平成元年3月21日から平成2年3月20日までの課税期間の消費税の更正処分等の経緯

<省略>

別表二

平成2年3月21日から平成3年3月20日までの課税期間の消費税の更正処分等の経緯

<省略>

別表三

平成3年3月21日から平成4年3月20日までの課税期間の消費税の更正処分等の経緯

<省略>

別表四

本件更正処分の経緯(自平成四年三月二一日至平成五年三月二〇日課税期間の消費税額)

<省略>

別紙一

<省略>

別紙二

<省略>

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